- はじめに:康煕字典? 康熙字典?
『e康煕字典』の製品レビューを書くにあたり大変困った点がある。それは「康煕字典」か「康熙字典」かということ。
こう書くと、『康煕字典DVD-ROM』の製品レビューをお読みの方は、「何度も同じようなことを書きやがって」とお怒りになることであろう。そう。全く同じ問題であるから詳しくは製品レビュー:康煕字典DVD-ROMの冒頭をご覧いただきたい。とりあえず「e康煕字典」「e康熙字典」と両方を書いておけばどちらで検索されてもひっかかるであろう。
ちなみにどっちが正しいのかは正直なところよくわからない。康煕字典DVD-ROMは「左切れ」で統一されているようであるが、e康煕字典のほうは検索エンジンでのヒット数はほぼ拮抗している。とりあえず当サイトでは左切れの「e康煕字典」のほうにしておく。
- 製品概要
『e康煕字典』は、Unihan Digital Technology(北京書同文数字化技術有限公司)が制作、三省堂が発売したCD-ROM版康煕字典である。Unihanが制作した康煕字典CD-ROMが中文Windowsでしか動作しなかったので、それを日本語Windowsで動作するようにし、あわせて日本語音訓での検索も可能にしたというもののようである。
検索結果は画像で表示される。画像は同文書局が光緒11年(1885)に出版した石印本。現在の中国で康煕字典は中華書局だの上海書店だのいろいろなところから影印出版されているが、たいていはこの同文書局版であり、その意味では「中国標準」版といえる。後発の『康煕字典DVD-ROM』で収録されている版とは版式が違うのでページ数や行数に互換性はない。
CD-ROM2枚に解説書がつき、定価は29400円。ISBN978-4-385-61310-9。詳細はUnihanの製品案内ページをご覧いただきたい。
- 動作環境
製品に記された動作環境は以下のとおり。
- OS:Windows® 98/Me/NT4.0/2000
- CPU:Pentium® 233MHz以上
- メモリ:32MB以上
- ディスク容量:430MB(標準)
- ディスプレイ:解像度800×600推奨
以下は動作環境に関する青蛙亭主人の補足である。
- Windows XP/VistaはOKか
動作OSにWindows XPが書かれていないのは、e康煕字典が発売された2001年7月にはまだXPが出ていなかった(XP日本語版は2001年11月16日発売)からであって他意はない。XPでも問題なく動作するし、たぶんVistaでも動作するだろう(青蛙亭主人はまだVistaを使っていないのである)。ただし、後述のように検索プログラムがUnicodeに対応していないので、Unicodeにさえ対応していればどんなアプリケーション上でも他国語IME使えるというXPの醍醐味は、e康煕字典では発揮されない。
Vista、Windows7ではインストールできません。You can't install this software without administrator privileges! というエラーが出ます。管理者権限でログオンしてるのに!
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- 他言語WindowsはOKか
もともと中国で開発されたものだけに、他言語WindowsでもOKである。ファイル名はすべて英数字のみを使用している。日本語Windows以外ではインストール画面の表記が英語になるし、Windowsのスタートメニューへの登録も英語名になるので、日本語が表示できずに文字化けする心配は全くない。
- データをハードディスクにコピーして使用できるかどうか
マニュアルに明記されている通り、問題なくできる。インストールは以下の3種類の方法があり、
最小 | 120MB | No.1、No.2のCDをとっかえひっかえ使う |
標準 | 430MB | No.2のCDのみをドライブに入れて使う |
最大 | 1GB | CD不要 |
「最大」を選べばデータをすべてハードディスクにコピーするので実行時にはCDが不要になる。インストール時に何も指定しないと「標準」になるが、ここはできれば「最大」を選びたい。辞書ソフトは、ワープロなど他のアプリケーションを使用しながら使うのが普通であり、使用に際してCDをドライブに入れておかねばならないのでは非常に使い勝手が悪く、データをハードディスクにコピーして使うのは当然と言ってよい。
- 検索プログラムの使い勝手について
辞書ソフトでは検索プログラムのできが命である。特にe康煕字典の画像データは1本のデータベースファイルにまとめられており、検索プログラムを介さなければ見ることができないので、なおさらである。
検索プログラムのできはまあ普通というところで、よくできている部分もあれば不満点もある。検索プログラムのメニューに即して書こう。
- 検索法の概要……漢字入力、部首検索、読み検索、筆順検索のどれかを用いて目的の字を検索すると、その条件にあう字が検索結果として表示される。さらに希望の字をクリックするとその字の情報が表示され、右側にその字の康煕字典画像がプレビューされる。その画像をマウスでダブルクリックすると画像が拡大表示される。これらの画像はその字の部分のみであるが、その字を含むページ全体を画像表示することもできる。
康煕字典に収録されていない日本新字・国字や大陸簡体字も入っているので、この検索プログラムだけでも簡易漢字字典として使うことができる。もっともそういう字では康煕字典画像を表示することができない。「それじゃ不便だ。広なら廣を表示すればいいのに」とも思うが、「広」の関連字としては「廣」以外に「广」があり、「广」も康煕字典に入っているので、どちらを表示すべきか決定できないという問題が発生するので、仕方ないところであろう。
- 検索結果画面……各検索方法の詳細とその問題点は後回しにして、まずは検索結果画面、単字情報画面、画像画面の詳細と問題点から書こう。
検索画面では1ページに字の候補が3字しか表示されず、それより候補が多い場合には前ページ・次ページボタンをクリックしてスクロールさせていくのであるが、検索結果はけっこう膨大になることが多く、100件程度の候補をスクロールさせていくのはなかなか大変である。
上述のようにこの検索プログラムには康煕字典収録字以外の字も入っているのだが、検索結果には康煕字典に収録されているかどうかは表示されず、クリックして単字情報を表示させてみてはじめて「なんだ。収録されていなかった」とわかる。スクロールの面倒くささとあわせてけっこうイライラするだろう。
検索結果画面をテキストにコピーできないので、難しい字の入力にこの検索プログラムを使うという使い方はできない(当サイトのWEB支那漢はそういう用途もできる)が、後述のように検索プログラムがUnicodeに対応しているわけではないのでこれも仕方ないところであろう。
- 単字情報画面……単字情報画面で表示されるのは、字の部首と画数、筆順、北京音、コード(Big5、Unicde、GB)、日本で使われる字では音と訓の読みである。
コードと音訓以外の情報は「新字形」「旧字形」というふうに左右に表示されるのであるが、たとえば「問」に対して「问」が表示されているわけでもないのに新字形も旧字形もあるものかと思ったら、音表記が新字形はピンインで旧字形が注音字母だったり、部首と画数が(「問」の場合)新字形は門部3画、旧字形は口部8画だったりするので、どうもこれは「新字形=大陸式」「旧字形=台湾式(伝統式)」ということのようである。
ピンインのところにマウスカーソルをもっていってクリックすると、その字を発音してくれる。面白い機能だが、中国語学習ソフトならともかくこのような辞書ソフトではあまり使い道はないのではないだろうか。
右側にはこの字のみの康煕字典画像がプレビューされているし、ダブルクリックするとその画像を拡大することができる。
ところがここで重大な問題がある。画像は字の説明全体の一部しか表示されていないのだが、なんと、これをスクロールさせることがまったくできないので、表示されていない部分を読むことができないのだ。
もちろん、この状態でメニューの印刷ボタンをクリックすると字の説明全体を印刷してくれるのだが、印刷の必要がないのに印刷をしなければならないというのは資源のムダである。
解決策としては、ここでメニューのコピーボタンを押し、適当な(できる限り軽快に動作する)画像ソフトに貼り付けて読むということである。
- 画像画面……その字を含むページ全体を表示してくれる。
字の説明がページをまたぐことは珍しくないが、そういう場合に次ページを表示してくれるわけではないので、ページ移動の機能もある。
画像はかなり小さく判読は困難だが、読みたい部分をマウスでクリックするとその周囲を拡大してくれる。ところがこれはクリックしている間だけで、マウスのボタンを離すと元に戻ってしまう。
ページ全体を印刷したりコピーしたりすることは可能であるが、画面上で拡大したままスクロールできるようにしてほしかった。
また、序や等韻など本文以外のページは画面下メニューの「参照」で見たり印刷したりコピーしたりすることができる。
- 漢字入力……調べたい漢字を入力して検索するという一番シンプルな検索法である。
ここで問題になるのは、この検索プログラムは『康煕字典DVD-ROM』の検索プログラム同様に、Unicode対応していないことである。よって漢字入力の方法ではJISにある文字しか検索できない。Unicodeに対応していればJISにない文字でも中国語IMEなどを使って入力することができたのであるから残念である。
その昔、Windows98/Meの時代はIEとMicrosoft Office上でしか他国語IMEが使えなかったが、Windows2000/XPではアプリケーションがUnicodeに対応してさえいればどんなアプリケーション上でも(たとえばメモ帳でさえも)他国語IMEが使えるようになった。e康煕字典の発売された2001年7月はまだXPが出ておらず、Windows2000はあまり一般ユーザに使われなかったということがあり、日本語IMEしか使えないのはいたし方ないのであるが、なんとも残念である。
漢字入力検索では入力した字のみを検索するほか、「広」を入力すると「廣・広・广」といった関連字をすべて検索することもできるので、「康煕字典だから旧字体で検索しなきゃ」と思う必要はない。気軽に日本通用の字で検索できる。
- 部首検索……部首と部首内画数を指定して検索できる。メニューには単に「部首検索」としか書かれていないが総画数からの検索もここでできる。
部首からの検索では必ず部首内画数を指定しなければならない。単に部首だけを指定すると部首内画数0として処理されてしまう。これは「その部首すべて」として処理するようにしたほうがよかったのではないだろうか。もっとも部首すべてを検索すると部首によっては膨大な字数になり、スクロールで検索していくのは非現実的かもしれない。
ところで所属部首というのは意外にわかりにくい。たとえば「問」は「門」かと思ったら康煕字典では「口」である。
この検索プログラムではどちらでも検索できるのだが、ここで落とし穴がある。この部首検索ではオプションとして「新字形」「旧字形」のどちらで検索するのかを選べるのだが、上述のように「新字形」「旧字形」とは字形の違いではなく、「大陸式(いま風)」「台湾式(伝統風)」ということなので、「問」は新字形では門部3画、旧字形では口部8画として登録されている。もう落とし穴がおわかりだろうか。つまり、「門部3画」で検索したいときは「新字形」を、「口部8画」で検索したいときは「旧字形」を指定しなければダメなのである。「新字形」で「口部8画」だと「問」は出てこないのである。これはちょっと不便で、新字形の情報も旧字形の情報も横断して検索できるようにしてほしかった。
- 読み検索……ピンイン、注音字母、日本語音訓の3種類で検索できる。
ピンインはローマ字と声調を別々に指定する。ローマ字は大文字でも小文字でもよい。üはvとして入力する(マニュアルにそのことが書かれていない!)。
注音字母を選ぶと画面にキーボードが表示されてマウスで入力する。これはこれでいいのだが、このキー配列は台湾の注音字母配列とまったく同じなのだから、ぜひホンモノのキーボードからも入力できるようにしてほしかった。マウスのクリックというのはけっこうわずらわしいものである。
日本語音訓は音の場合カタカナ、訓の場合はひらがなで入力しなければならない。間違えるとヒットしないので注意。
- 筆順検索……ヨコ・タテ・左ハライ・点・右ハライ・カギの6候補から筆順のとおりにクリックして検索する。読みや画数がわからない字を検索するのには便利であるが、問題点がいくつかある。
まず、ここで採用されている筆順は中国式であるということ。日本の教育現場では「『左』は横が先、『右』はナナメが先」などと教えているが、中国ではどちらも左が先であり、当然このe康煕字典でも左を先にしないといけない。また「田」の内部は「土」同様に横縦横だし、「必」は左→右に書いていく。このような中国式の筆順を知らないと検索できないことがあるので要注意。
次に、この筆順検索が「先頭一致」であるということ。つまり、単に「ヨコ」一つだけを指定して検索すると、「一」だけが検索されるのかと思いきや、ヨコから書き始める字をすべて検索してしまうのである。その数9861字! しかも順序がどういう仕組みなのかよくわからない。この中から「一」を検索するのはかなり大変である。青蛙亭主人はまだ「一」を検索できていない! これは実用的でない。せめて先頭一致にするか完全一致にするかを選べるようにしてほしかった。
なお、部首検索と同様に新字形か旧字形かを指定できるのであるが、大陸と台湾で筆順が違う字というのがあるのだろうか。青蛙亭主人はまだそういう字の例を見つけていない。そんなのを指定するくらいなら、しつこいようだが、今述べたように先頭一致か完全一致かを指定できるようにしたほうがよかったのだ。
- その他・気づいた点
- たいていのアプリケーションは、インストール時にショートカットをWindowsのスタートメニューに登録する際、「プログラム」の下に登録する。しかしe康煕字典はWindows Updateなどと並んでスタートメニューのルートに登録してしまうのである。堂々とというか鉄面皮というか、あきれてしまった。
- インストールプログラムが勝手にインターネットにアクセスをする(ファイアウォールソフトが警告を発してくれたのでわかった)。たぶん製品を登録しているのであろうが、そういうことはちゃんと確認してからすべきである。マニュアルにもネットアクセスのことは全く書いていない。
- 検索プログラムを終了する際、「コピーするな」という警告と開発者のクレジットとが表示される。そのこと自体はいいのだが、このクレジット画面がスクロールしながらまるでハリウッド映画のエンディングクレジットのように延々と表示されるのにはまいった。実はこのクレジット画面でマウスを1回クリックすればすぐに終わってくれる。しかしそのことがマニュアルのどこにも書かれていないので、このことに気づくまでは、プログラムを使うたびにこれが表示されるのかと非常に憂鬱な気分であった。
- 総合評価
上述のように不満点もいろいろあるが、全体としてはよい出来だと思う。日本語の音訓で検索したり、データを気軽にコピーして他アプリに貼ることができたり、後発の康煕字典DVD-ROMに比べてもより便利に使える。
もっとも、電子化された康煕字典を必要な人というのは少ないのではないだろうか。そのことは『康煕字典DVD-ROM』の製品レビューの末尾に書いたので繰り返さないが。
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