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『康煕字典DVD-ROM』の製品レビューを書くにあたり大変困った点がある。それは「康煕字典」か「康熙字典」かということ。JISおよびUnicodeには「煕」と「熙」という非常に似通った2つの字が存在する。違いは左上の「臣」のような部分、まるでオモリが上下からワイヤーで固定されている(こういう振り子を見たことがある)形だが、そのオモリの部分の左が切れているのが「煕」で、つながっていて「四角」になっているのが「熙」である。整理すると
ともあれ、両方のコードが混在している現状で一番困るのは検索である。検索エンジンで「康煕字典」と入れると「康熙字典」のほうがひっかからないという問題が起こるわけである。 実は、このページでなんでこんなことをうだうだ書いている真の理由は検索エンジン対策である。早い話、「康煕字典」「康熙字典」両方を書いておけばどっちでもひっかかるだろうということをあてにしているわけである。 とりあえず以下は、この製品が採用している「康煕字典」に統一しておく。 『康煕字典DVD-ROM』(もしくは康熙字典DVD-ROM)は、文字鏡研究会が監修、エーアイ・ネットが開発・製作し、紀伊國屋書店が2007年2月に発売したDVD-ROM版康煕字典である。同種のものには2001年に三省堂が発売した『e康煕字典』(もしくはe康熙字典)があるが、中国版(道光年間)と和刻本(安永年間)とを両方収録するというマニアックな体裁である。 DVD-ROM1枚に解説書がつき、定価は29400円。ISBN978-4-314-90035-5。詳細は今昔文字鏡(製品版)のサイトをご覧いただきたい。 製品に記された動作環境は以下のとおり。 ずいぶん制限がきついようだが、実際にはここに書かれているいくつかの条件については満たさなくても大丈夫なようである。以下に記すのは青蛙亭主人のパソコンの環境で確かめたことだが、ひょっとしたらこれは偶然にOKだったに過ぎないのかもしれず、みなさんの環境でも同様かどうかは保証の限りではない。よってたとえば「青蛙亭主人が『実はデータをハードディスクにコピーして使用できる』と書いているのを信用して購入し、やってみたらダメだった。わざわざハードディスクも増設し、外付けDVD-ROMドライブも買ったのにいったいどうしてくれるんだ! 製品の代金やハードウェア代を弁償せよ」などという抗議は受け付けないのでそのつもりで。 まず「95/98/Meで大丈夫か」のほうだが、ディスクの最大容量が2GBという95では無理であるから除く。Meでは検索プログラム「康煕字典.exe」は動作するから、たぶん98でも大丈夫だろう。辞書の各ページの画像データおよびそれを表示するためのhtmlページも起動できるのはもちろんである。しかし後述のように「康煕字典.exe」は非常に使い勝手が悪く、現実には「今昔文字鏡単漢字15万字版」から呼び出す形でなければ使えない。ところがこの「今昔文字鏡単漢字15万字版」が98/Meにはインストールできない。とすると98/Meでは実質的に使えないということになる。 他言語Windowsの場合、検索プログラム「康煕字典.exe」のファイル名がひっかかる可能性がある。上述のように「煕」の字がGB、Big5、KSに存在しないからである。その場合はデータをハードディスクに全部コピーし、「康煕字典.exe」だけは「ksi.exe」などにリネームしてコピーすればよい。そうすれば一応検索プログラムは他言語Windowsでも動作する。もっとも漢字の入力ができないのだが、下で記すように、検索プログラム「康煕字典.exe」はUnicode対応していないために、日本語Windows上ですら使い勝手がいいとはいえず、このことはあまり問題にならないのではないかと思う。 『康煕字典DVD-ROM』では各ページの画像をおさめたJPEGファイルを一度HTMLファイルを介してブラウザを用いて表示している。このため何かしらブラウザが必要なのであるが、ほとんどのWindowsマシンではデフォルトのブラウザがIEなので、ページを表示するのにIEが起動してしまう。他のブラウザをデフォルトにしていればそのブラウザが起動するのだと思うが確かめていない。 また、HTMLファイルではJPEGファイルをページ内におさめるような処理をしておらず原寸大で表示する。各ページのJPEGファイルは解像度を優先していてデカいのでページにはおさまりきらない。画面で見るだけならマウスでスクロールさせればいいのだが、印刷してしまうとページの一部しか印刷されないことになる。 このような場合に縮小して全体を印刷させる機能が各ブラウザにはあるのだが、IEの場合は7以降でないとこの機能がないので、6までの場合は印刷するとページの一部分しか印刷されないことになる。「画面印刷にはIE7以上」と書いてあるのはそういう意味である。 他のブラウザを用いて印刷してみたが、ページ設定によっては画面の下の一部が欠けてしまったりと、なかなか大変である。 こういう場合、実は簡単に解決できる方法がある。ブラウザで印刷するのをあきらめて他の画像ソフトを用いて印刷すればいいのだ。ブラウザで目的のページを表示したら、画像の任意の部分でマウスを右クリックして「コピー」をする。そして画像ソフトを起動して貼り付けて印刷すればいいのである。ブラウザからの画像印刷は融通がきかないことが多いが、画像ソフトではそんなことはないはずなので、印刷に困った場合はこのような方法をとればいい。そうすればIE7でなくても大丈夫というわけだ。 「そんなことをしないでIE7にアップグレードすればいいじゃないか」と思うかもしれないが、IE7には日本語入力に関してトラブルが多発しており(2007年7月現在)、青蛙亭主人は愛想をつかしてIE6に戻してしまったのである。このようにIE7を使いたくない人はけっこう多いと思うので、そういう人は上の方法を試してみるとよい。 できないと書いてあるができるようである。DVD-ROMのルートにはautorun.infとフォルダkxiしか存在しないが、autorun.infを除きフォルダkxiの内容をすべてハードディスクにコピーし、ハードディスク上のフォルダkxi内の「康煕字典.exe」をクリックすれば、DVD-ROMを抜いていても正常に動作する。漢字のファイル名が邪悪というなら「kxi.exe」などとしてもかまわない。これのショートカットをデスクトップなどに作っておくと便利である。またこの状態で「康煕字典.exe」を起動し、「今昔文字鏡との連携をセットアップする」をやれば、今昔文字鏡から参照する場合でもDVD-ROMではなくハードディスク内のフォルダを参照するようになるので、DVD-ROMは一切不要になる。 とすると製品に「データをハードディスクにコピーして使用することはできません」というのはまるきりウソということになる。ひょっとしたらこれは技術的に不可ということではなく使用許諾条件的に不可、つまり「一応コピーはできるけどやらないでね」ということなのだろうか。 しかし本製品のような辞書ソフトは、ワープロなど他のアプリケーションを使用しながら使うのが普通であり、使用に際してCD(DVD)をドライブに入れておかねばならないのでは非常に使い勝手が悪い。データをハードディスクにコピーできるかどうかは導入決定のための重要な要素といってよい。データをコピーできないんじゃ使えないやと思って購入をためらっている人も多いのではないだろうか。一応青蛙亭主人の環境ではハードディスクにコピーしてDVD-ROMなしで利用していることをご報告しておく。 なお、データは基本的にプレーンのHTMLファイルおよびJPEGファイルであり、検索プログラムを介さずとも利用することができる。字が載っているページがわかれば読むべきファイル名がわかるので、独自のアプリケーションから呼び出すという用途もひらけている。 DVD-ROMにはすべてのファイルが圧縮など一切されずにそのまま入っているので、そのままコピーすればよい。ただしこのDVD-ROMに限らないことだが、一般にCDやDVD上のファイルは読み取り専用属性がついているので、そのままコピーすると読み取り専用属性がついたままコピーされてしまう。これではその後にデータの削除などがしにくいので、コピーした後にすべて読み取り専用属性を解除する(すべて選択してマウス右クリックでプロパティを選ぶ)か、もしくは読み取り属性を解除しながらコピーしたほうがよい(これにはDOSのxcopyコマンドを使うのが手っ取り早い)。ファイル数は123370、ハードディスク上では9~10GB程度を占有するので、コピーの時間とハードディスクの空き容量の覚悟をきめてかかること。 製品についてくる小冊子には康煕字典に関してマニアックといえるほどの詳しい解説があり大変参考になる。ひょっとしたらこの製品の最大の特長はこの解説かもしれない。康煕字典のさまざまな版本に関する解説もさることながら、序や凡例などの訳もある。「凡例を読むのは辞書の基本」とはいえ、康煕字典の凡例は当然ながら漢文、従来は素通りしていた人も多いであろう。この機会にじっくり通読してみてはいかがだろうか。 上でも多少ふれたが、検索プログラム「康煕字典.exe」の使い勝手はあまりよいものではない。気づいた問題点を以下に記す。 充実した解説をつけたり中国版と和刻本の2種類を収録したりするなどマニアックな試みをしているのに、検索プログラムが貧弱なので、結局は今昔文字鏡が必須である。康煕字典DVD-ROMは29400円、偶然にも(必然か?)先行商品であるe康煕字典の価格29400円とまったく同一なのだが、今昔文字鏡の代金(これも29400円だ!)が必要ということは実際には58800円ということであり、かなり割高になってしまう。「版本を2種類収録したから価格もちょうど2倍なのか」と皮肉の一つも言いたくなってしまう。 すでに今昔文字鏡(最新版の単漢字15万字版が必須、もちろんフリーソフト版ではなく製品版である)を使っている人ならいい買い物になるかもしれない。返り点や送り仮名のついた和刻本が入っているので説明の解読に便利である。 それにしても思うのは、電子化された康煕字典を必要な人ってどういう人なのだろうかということ。漢文-漢文字典であるから説明はすべて中国語。素人にとっては康煕字典の説明を読みこなすのは大変である。一方プロはといえば、康煕字典は結局はいろいろな資料を寄せ集めた二次資料にすぎず、ここをとっかかりとしてさらに先に進むべきものである。つまり論文の中で「康煕字典にはこうある」などと書くわけにいかず、康煕字典の説明で老子を引き合いに出しているのでさらに老子をひもといて「老子にはこうある」と書かねばならないわけである。そういう「とっかかりの書物」としては康煕字典以外にもいろいろ便利なものがあるので、あえて康煕字典を引く機会は少ないのではないだろうか。実際、プロにとってどうしても康煕字典が必要になるのは、字体の規範を求めたり、部首-画数順索引を作るのに所属部首や順序などを康煕字典に頼るというような場合であろう。そういう用途には電子化辞書は必ずしも有益ではなく、むしろ昔ながらの紙媒体のほうが便利だったりするのだ。電子化するならもっと有益な本がいろいろある中で、康煕字典というのは中途半端な位置にある書物だと思う。 |