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発音

あるいは注音符号入門


     『急就篇』原著には発音を解説した章はなく、いきなり“単語”章から始まります。が、中国語テキストとして発音について何も書かないのもはばかられるので独自に付加しました。原著にないものですので必要最小限にとどめました。これではよくわからないという人は、他の中国語テキストで補ってください。
     むしろこの章は“注音符号入門”の色彩が強いかもしれません。当サイトの発音表記は拼音と注音符号(注音字母)を併記しています。日本の学習環境は大陸の中国語一辺倒ですので拼音はなじみ深いですが注音符号についてはなじみがないかもしれません。そこで“注音符号入門”としても読めるように注音符号の解説を加えました。

  1. 発音の表記法
     漢字は表意文字なので発音表記は苦手です。中国の伝統的な辞書では発音表記は「音A」(A字と同じ発音)とか、「AB切」(A字の前半とB字の後半を組み合わせた発音)とかいう表記をしていました。清末になって西欧諸国との交流の過程でさまざまなローマ字表記法が生まれましたが、このうち一番用いられたのが、英国大使ウェードの考案したウェード式ローマ字です。中華人民共和国成立後はピンインという独自のローマ字表記が出来ましたが、それまではもっともよく用いられた発音表記法であり、『急就篇』ファミリー参考書の一つ『羅馬字急就篇』は、全文をこのウェード式ローマ字で表記しています。
     中華民国時代には日本のカタカナにならって漢字の一部を省略した字体をベースとした独自の発音表記専用文字が考案されました。これが「注音符号」(当初は「注音字母」と呼ばれましたがその後「注音符号」と改称されました。それでもいまだに「注音字母」という言い方も多いです)であり、台湾では現在でも用いられています。大陸では廃止されましたがいまだに辞書では(子供用の辞書を除いて)注音符号が併記されています。縦書きもできるというのが一大特徴で、縦書きのテキストに注音するときにはローマ字より注音符号のほうが便利ですし、後述のピンイン(大陸のローマ字)は運が悪いとzhuāngのように1音節に6字も書かねばならないことがありますが、注音符号は声調を除いて最大3字(この場合ㄓㄨㄤ)でおさまる便利さもあり、“おれは台湾なんか関係ない”という人でも注音符号は覚えておいて損はありません。
     中華人民共和国成立後には独自のローマ字表記が考案されました。これが「漢語拼音」略して「拼音」といいます。「拼」の字がJIS第二水準までに存在しないことから日本では“ピンイン”のようにカタカナで書かれることが多いです。
     当サイトの発音表記はピンインおよび注音符号を併記しています。



  2. 声母、韻母、声調
     中国語の漢字は原則一字一音節です。が、中国語の音節は概して単調で、英語のstrengthsのような複雑な構造をもったものはありません。
     中国語の音節は大きく、“先頭の子音+それ以外”という形になります。この先頭の子音のことを「声母」といいます。もっとも先頭に子音が来ずいきなり母音で始まる音節もあるのですが、その場合も声母はまるきりゼロではありません。なぜなら、「安」はアンと発音しますが、「天安門」の「天安」は“ティエンアン”です。もし「安」の声母がまるきりゼロなら“ティエナン”のようになるはずです(実際、朝鮮語では“天安”はチョン+アン→チョナンと発音されます)。このことからしても中国語では母音で始まる音節は、まるきり純粋に母音で始まっているわけではなく、音として現れてこない区切りのようなものが入っていることがわかります。
     残りの部分は「韻母」といいます。これを細かくわけると「介音」「主母音」「韻尾」「声調」の4要素にわかれます(声調は韻母と別要素とする考え方もあります)。詳しくは下の各部分で説明します。
     以下、「声調」「韻母」「声母」の順に発音の概説をします。



  3. 声調
     中国語では字(音節)ごとに独特のあがりさがりの調子があります。これを「声調」といいます。北京語では原則4種類の声調があり、それ以外に軽声という本来の声調を失って軽く発音されるものがあります。
    名称 1声 2声 3声 4声 軽声
    別名 陰平 陽平 上声 去声  
    ピンイン ˊ ˇ ˋ 無表記
    注音符号 -(通常は無表記) ˊ ˇ ˋ

     1声は高く平らに、2声は上がり調子、3声は低く平らに、4声は下がり調子で発音します。
     軽声は本来の声調を失って軽く発音されるものであり、概して中ほどの高さの音になります。ですから1声+軽声、2声+軽声では前の字の最後より多少下がった高さで軽く発音します。逆に3声+軽声では前の字の最後より多少上がった高さになります。ただし4声+軽声は前の字の最後である一番低い音とほぼ同じ高さになります。
     3声は、それで終わる場合には末尾が多少上がる感じになります。
     また3声+3声…のように3声が連続する場合、一番最後の3声を除いてそれまでの3声は2声のように上がり調子になります。ただしピンインでも注音符号でも表記は3声のままです。
     ピンインでは声調記号は、母音字の上につけます(例外的にmだけとかngだけという音節もあるのですが、その場合は仕方ないのでその上につけます)。母音字が複数あるときは、a→e→o→その他という優先順位でつけます。またiu、uiという連続がある場合は、後のほうにつけます。軽声は声調記号無表記で表します。
     なお、「子(zǐ)」という接尾辞のついた語で「子」を軽声に読む場合、従来は単にzと記すのが一般的でした。たとえば「椅子」はyǐzという具合にです。しかし今ではyǐziのようにiを省略せずに書くのが普通です。
     注音符号では母音記号は、横書きでは母音字の真上、縦書きでは母音字の右肩につけます(母音字がないときは子音字の真上/右上となります)。母音字が2つあるときは後のほうにつけます。横書きで、上につけるのが困難なときには、右肩(実質的に最後)に書く流儀もあります(当サイトではそうしています)。ピンインとは異なり、声調記号無表記の場合は1声ということになります。軽声の場合は音節の前(つまり横書きでは左、縦書きでは上に点を打ちます)。



  4. 韻母
     中国語の韻母は、おおまかに3つの部分からなっています。
    介音主母音韻尾
    なし
    i(ㄧ)
    u(ㄨ)
    ü(ㄩ)
    なし
    a(ㄚ)
    e(ㄜ/ㄝ)
    o(ㄛ)
    なし
    i
    u
    n
    ng

     たとえば-ianという韻母は、介音i、主母音a、韻尾nというふうに分析できます。上表によれば、単純計算で、介音4種類(「なし」を含む。以下同)×主母音4種類×韻尾5種類=80種類の韻母が存在することになりますが、実際には34種類しか存在しません(これ以外に上の組み合わせでできない特殊な韻母が若干あります)。
     それから、上表をそのままくっつければいいかというとそうではなく、ピンインでは表記が変化したりします。また注音符号では主母音+韻尾という単位を一つの字で表します(上表で韻尾に注音符号が書いていないのはそのせいです)。わずらわしいので、以下は、介音ごとに分類して韻母を紹介します。すなわち、“i/u/ü以外で始まる”“iで始まる”“uで始まる”“üで始まる”という具合です。
    1. i/u/ü以外で始まる韻母
      1. a(ㄚ)……口を大きくあけてハッキリと“ア”と発音します。
      2. o(ㄛ)……日本語の“オ”よりも口を丸くすぼめて“オ”と発音します。
      3. e(ㄜ)……“エ”ではありません。“エ”の口の形で“オ”と発音します。日本人にはどちらかといえば“オ”に近く聞こえるはずです。
      4. ai(ㄞ)……“アイ”ですが、“ア”と“イ”を別々に発音するのではなくできる限り“イ”になめらかに移行するように発音します。
      5. ei(ㄟ)……“エイ”ですが、“エ”と“イ”を別々に発音するのではなくできる限り“イ”になめらかに移行するように発音します。なお、ピンインでは同じくeと書いていますが、単独のe(上述のように“オ”に近い)と、eiのeとは発音が違うことに注意してください。
      6. ao(ㄠ)……aoと書いていますが本来はa+uです。“アオ”よりは“アウ”に近い感じで、最後は口をすぼめて発音します。
      7. ou(ㄡ)……“オウ”です。そもそもo自体、日本語の“オ”よりは口をすぼめるわけですが、最後の“ウ”のところではいっそう口をすぼめて、前に突き出すような感じで発音します。
      8. an(ㄢ)……“アン”ですが、以下、nで終わるものはすべて舌を上の歯の裏にしっかりつけて“ン”と発音します。日本語の“ン”は後述のngに聞こえます。nは舌を意図的に前に出しましょう。軽く舌を噛んでもよいほどです。そういうnに接続する関係で、aは単独のアよりもやや口の開きが狭まったものになります。
      9. en(ㄣ)……一応“エン”でかまいませんが、nに関する注意は上同様です。“エ”の部分はやや“ア”に近い感じに聞こえることがあります。
      10. ang(ㄤ)……“アン”です。ngは鼻に息を通して“ン”と発音します。最後に“グ”と発音してはいけません。日本語の“ン”は、そこで終わる場合はngのように聞こえます。ngの発音の副作用で、aはやや奥まった感じの音になります。
      11. eng(ㄥ)……“エン”ではなく“オン”に近い感じです。単独のe(“エ”の口の形で“オ”という)の響きがはっきりあらわれます。ngは上記同様に鼻に息を通します。


    2. iで始まる韻母
      1. i [yi] (ㄧ)……以下、iで始まる韻母はすべて、iの部分は唇を意図的に左右にひいてはっきりと“イ”というようにします。なお、ピンインでは前に子音の付かない単独のiはyiと表記します。以下、[ ]内は前に子音の付かないときの表記です。
         この注音符号は日本語の音引き(長音記号)とは逆に、縦書きのときには「一」、横書きのときには「丨」、つまり流れに対して直角になる(流れをせきとめる)ようにするのが本当ですが、フォントの関係でそうならない場合もあるかもしれません。
      2. ia [ya] (ㄧㄚ)……“イア”です。“イ”は長くなくてもいいのですが、上述のように唇をしっかりと左右にひくようにし、“ヤ”にならないようにします。以下みなそうです。
      3. ie [ye] (ㄧㄝ)……“イエ”です。eはこの場合“エ”でかまいません。
      4. iao [yao] (ㄧㄠ)……“イアウ”です。ao部分はやはり“アオ”よりは“アウ”に近い感じになります。ia同様に“イ”は短いながらもはっきり発音し“ヤウ”にならないようにします。
      5. iu [you] (ㄧㄡ)……“イオウ”です。ピンインでは子音がつく場合にoを書きません。それは子音が付くとoが軽くなって“イウ”に近く発音されるからです。が、3声や4声のように長めの発音になるときにははっきり“オ”が現れてきます。ともかく最初の“イ”と最後の“ウ”をはっきり発音するように注意しながら、“イ→ウ”の移行の副作用で“オ”が響いてくる、という感じで発音します。
      6. ian [yan] (ㄧㄢ)……“イエン”です。ウェード式ローマ字ではienと書くほどであり、決して“イアン”ではありません。最初の“イ”と最後のnがどちらも口を閉じる動きにかかわる音なので、結果としてaのところで口が開かず“イエン”のようになるのです。
      7. in [yin] (ㄧㄣ)……“イン”です。注音符号を見るとi+enであり、もともとはそうなのですが、単独でも決して“イエン”と読まれることはありません。口を横にひく“イ”から舌を歯に当てるnに直行する感じで“イン”と発音します。
      8. iang [yang] (ㄧㄤ)……これは“イアン”でOKです。鼻にぬけるngの影響で“ア”は奥まった感じになります。“イ”は短いながらはっきりと。“ヤン”にならないように。
      9. ing [ying] (ㄧㄥ)……“イン”です。注音符号を見るとi+enであり、もともとはそうなのですが、単独でも決して“イエン”と読まれることはありません。in [yin] (ㄧㄣ)との区別がつきにくいので注意しましょう。


    3. uで始まる韻母
      1. u [wu] (ㄨ)……以下、uで始まる韻母はすべて、uの部分は唇を前に突き出すくらいにすぼめます。なお、ピンインでは前に子音の付かない単独のuはwuと表記します。以下、[ ]内は前に子音の付かないときの表記です。
      2. ua [wa] (ㄨㄚ)……“ウア”です。“ウ”は長くなくてもいいのですが、上述のように唇をはっきり前に突き出すようにし、“ワ”にならないようにします。以下みなそうです。
      3. uo [wo] (ㄨㄛ)……“ウオ”です。“ウ”で唇を突き出すぶん、“オ”は単独の場合より口が開き気味になるかもしれません。
      4. uai [wai] (ㄨㄞ)……“ウアイ”というより“ウアエ”に近いかもしれません。“ウ”で唇を突き出すぶん、末尾のiのところで口を横にひくのがややおろそかになります。
      5. ui [wei] (ㄨㄟ)……“ウエイ”というより“ウエ”です。uai同様末尾のiがややおろそかになります。ピンインでは子音がつく場合にeを書かないのですが、むしろ現実には末尾のiを落とすような感じです。露骨に“ウイ”とやるとかえっておかしくなります。
      6. uan [wan] (ㄨㄢ)……“ウアン”です。ianと違ってこちらは真ん中のaがはっきり「ア」と聞こえますが、最初に唇を突き出し、最後で舌を歯の裏にしっかりつけるのを忘れないこと。けっこう口の動きが忙しい音です。
      7. un [wen] (ㄨㄣ)……“ウエン”です。inは絶対に“イエン”にならないのに、unは逆に“ウン”になりません。ピンインでは子音が前につくとunと書くくせに、それでもあいまいな感じでエが聞こえます。
      8. uang [wang] (ㄨㄤ)……“ウアン”ですが、ngは鼻に抜く“ン”です。aの部分は口の開きを大きめにしますが、なれないとuanとの聞き分けが難しいところです。
      9. ong [weng] (ㄨㄥ)……“ウン”です。ピンインはongと書いていますが、“オン”ではなく“ウン”です。単独のときとずいぶん表記が異なりますが、単独のときにはあいまいなe(“オ”に近い音)が響き、“ウォン”という感じになります。


    4. üで始まる韻母
      1. ü [yu] (ㄩ)……以下すべてそうですが、üは唇をできるだけすぼめて“イ”と発音します。ドイツ語を知っていると“ユ”のように発音したくなりますが、むしろ“イ”に近い感じです。
         それから重大な注意があります。注音符号ではüはいかなる場合も必ずㄩと書くのですが、ピンインの作者はよほどこの点々をうちたくなかったと見えて、“点々をうたなくてもわかる場合はできるだけうたないですませる”方式を考案しました。üは前に子音が来る場合は、j/q/x/n/lしかありません。このうちj/q/xは、次に絶対にuが来ないので、ピンインではüではなくuと書いてしまいます。それから単独のときもyuのように書きます。前がnとlのときは、nuとnü、luとlüの両方の可能性があるので、しぶしぶüと書くのです。逆にいえば、ピンインでyu/ju/qu/xuというシーケンスをみかけたら、そのuは実はüなのだということを肝に銘じてください。これは以下すべてそうです。
      2. üe [yue] (ㄩㄝ)……“ユエ”という口の形で“イエ”といいます。くどいですが、yue/jue/que/xueのueは実はüeです。
      3. üan [yuan] (ㄩㄢ)……“ユアン”という口の形で“イアン”といいます。ianが“イエン”になったように、こちらもやや“ユエン”みたいになります。くどいですが、yuan/juan/quan/xuanのuanは実はüanです。
      4. ün [yun] (ㄩㄣ)……“ユン”で一応OKです。むしろ“イユン”や“イウン”にならないようにします。くどいですが、yun/jun/qun/xunのunは実はünです。
      5. iong [yong] (ㄩㄥ)……ピンインではどこにもüが出てきませんが、実はこれはれっきとしたüngであり“ユン”です。üの形のまま鼻に息を抜く“ン”を発音します。そのとき結果として“ウ”に近い“オ”が聞こえてくるという感じです。ピンインにひきずられて“ヨン”にならないようにしましょう。なお、nとlが前に来ることはないので、ピンインでは絶対にüngと書かれることはありません。


    5. 特殊な韻母
      1. i ()……iのどこが特殊なんだ? と思うかもしれませんが、後述の声母zh(ㄓ)/ch(ㄔ)/sh(ㄕ)/r(ㄖ)の口の形そのままで声を出すと、イともウともつかない非常にあいまいな音がでます。また、z(ㄗ)/c(ㄘ)/s(ㄙ)の口の形そのままで声を出すと、さきほどとはちょっと違いますが、口を丸めないウに近いあいまいな音が出ます。注音符号ではこれをまったく表記せず、まるで韻母ナシであるかのようにㄓ/ㄔ/ㄕ/ㄖ/ㄗ/ㄘ/ㄙとだけ書きますが、まるきり母音ナシというわけではありません。ピンインではiと書きますが、“イ”とは違います。詳しくは後の声母のところで述べます。
      2. er (ㄦ)……単独でしか出てきません。口を半開きにしたあいまいな“ア”を発音したあと、すばやく舌を奥のほうにそらせます(舌先はどこにも触れないようにします)。なお、他の語のあとについて“アル化音”という特殊な音節を作りますが、これについては後述します。





  5. 声母
     中国語の声母は、ゼロを除くと21種類あり、6種類に分類されます。
     その6種類の分類の最初の2つだけをピンインで書き出すと、b/p、d/t、g/k、j/q、zh/ch、z/cとなります。これは一見、清音/濁音という対立のように見えますが、実はすべて清音です。たとえばbo / po はカナで書けば両方とも“ポ”です。違いは、boのほうが息を出さないように発音し、poは露骨に息を出しながら発音するというものです。前者を無気音、後者を有気音といいます。無気音は状況によっては日本人の耳には濁音に聞こえることがありますが、発音するときには濁音ではなく、息を出さずに清音で発音するように心がけます。逆に有気音は露骨に息を出すようにします。
     子音だけではカナで書けず発音の解説がしにくいので、たとえばbは[bo]のように適宜母音を補った形で発音します。それを以下ではb(ㄅ)→bo(ㄅㄛ)のように書くようにします。
    1. 唇音
      1. b(ㄅ)→bo(ㄅㄛ)……息を出さずに“ポ”と発音します。
      2. p(ㄆ)→po(ㄆㄛ)……息を露骨に出しながら“ポ”と発音します。
      3. m(ㄇ)→mo(ㄇㄛ)……日本語の“モ”よりも唇に力を入れて(誇張すれば“ンモ”のように)発音します。
      4. f(ㄈ)→fo(ㄈㄛ)……英語のf同様に“フォ”と発音します。


    2. 舌尖音
      1. d(ㄉ)→de(ㄉㄜ)……息を出さずに“ト”と発音します。
      2. t(ㄊ)→te(ㄊㄜ)……息を露骨に出しながら“ト”と発音します。
      3. n(ㄋ)→ne(ㄋㄜ)……日本語の“ノ”よりも唇に力を入れて(誇張すれば“ンノ”のように)発音します。
      4. l(ㄌ)→le(ㄌㄜ)……英語のl同様に舌を歯の裏につけて“ロ”と発音します。


    3. 舌根音
      1. g(ㄍ)→ge(ㄍㄜ)……息を出さずに“コ”と発音します。
      2. k(ㄎ)→ke(ㄎㄜ)……息を露骨に出しながら“コ”と発音します。
      3. h(ㄏ)→he(ㄏㄜ)……一応“ホ”ですが、のどの奥で、のどぼとけをふるわせるように発音します。特にhuのときに日本語の“フ”(これはfuになってしまう)にならないようにしてください。


    4. 舌面音
       舌面音に属する3つの声母のあとは必ずi(ㄧ)かü(ㄩ)になります。そこでピンインではüをuと表記することに注意してください。
      1. j(ㄐ)→ji(ㄐㄧ)……息を出さずに“チ”と発音します。
      2. q(ㄑ)→qi(ㄑㄧ)……息を露骨に出しながら“チ”と発音します。
      3. x(ㄒ)→xi(ㄒㄧ)……日本語の“シ”と同様です。


    5. そり舌音
       そり舌音に属する4つの声母のあとにはi(ㄧ)やü(ㄩ)は絶対に来ません。ピンインではzhi/chi/shi/riなどのように一見iが来ているかのように見える場合がありますが、これは“イ”ではなく、そり舌音の声母の口と舌の形のままで声を出す、“イ”とも“ウ”ともつかないあいまいな音です。この母音を注音符号ではまったく表記しません。
      1. zh(ㄓ)→zhi(ㄓ)……“舌をそらす”というと難しそうですが“舌先を起立させる”ような感じにします。すると舌面はスプーンのようにくぼむはずです。この状態で息を出さずに音を発するとやや“ツ”に近い“チ”になるはずです。それがこの音です。
      2. ch(ㄔ)→chi(ㄔ)……同様に、こんどは息を露骨に出しながら“ツ”に近い“チ”を発音します。
      3. sh(ㄕ)→shi(ㄕ)……同様に、“ス”に近い“シ”を発音します。
      4. r(ㄖ)→ri(ㄖ)……sh(ㄕ)の濁音です。ですから“ズ”に近い“ジ”といえますが、このとき舌が立っていることの副作用で、rのような響きが強く聞こえます。つまり耳には“ル”に近い“リ”のように聞こえるわけです。しかしrそのものとは違うので、慣れないうちは“ズ”に近い“ジ”をいうようにしたほうがいいかもしれません。現にウェード式ではjで書き表します。ルとズが近いなんて信じられないかもしれませんが、チェコ語のřは日本語ではふつう“ルズ”と転写しますが一応一音です。チェコの音楽家ドヴォルザークはDvořákと書くのです。たぶんチェコ語のřは中国語のrと似たような性質なのでしょう。


    6. 舌歯音
       舌歯音に属する3つの声母のあとにもi(ㄧ)やü(ㄩ)は絶対に来ません。ピンインではzi/ci/siなどのように一見iが来ているかのように見える場合がありますが、これは“イ”ではなく、舌歯音の声母の口と舌の形のままで声を出す音です。上述のそり舌音のあとのiと比べると、“イ”には聞こえず、口を丸めない“ウ”というところでしょう。この母音を注音符号ではまったく表記しません。
      1. z(ㄗ)→zi(ㄗ)……舌先を上の歯の裏側につけて“ツ”と発音します。zu(ㄗㄨ)という音もあるのでzi(ㄗ)の場合は口を丸めないようにしましょう。
      2. c(ㄘ)→ci(ㄘ)……同様に、こんどは息を露骨に出しながら“ツ”と発音します。
      3. s(ㄙ)→si(ㄙ)……同様に、“ス”と発音します。


    7. ゼロ声母
       いきなり母音で始まる音節は、声母がないことになりますが、上述のようにまるきり何もないのではなく、音として現れてこない区切りのような子音で始まっているものと考えられます。
       ピンインは音節ごと(字ごと)に分かち書きせず、単語単位でくっつけてしまうので、上述の例「天安」をそのまま書くと、tiānānとなってしまい、“ティアナン”と読まれるおそれがあります。もっともtiāなどという音節はありえないので“あれおかしいぞ? そうか、tiān-ānかとわかるはず”ともいえるのですが、まぎらわしいには違いないので、こういうときは、tiān'ānのように ' を入れて表記します。
       “こういうとき”をもっと厳密にいうと、“i、u、ü以外の母音で始まる音節が語中にきたときに ' をつける”というわけです。i、u、üで始まるものはピンインではyi、wu、yuと書かれ、くっつけても誤読のおそれはないので、 ' は用いません。
       注音符号は通常音節ごと(字ごと)に分かち書きするのが普通ですし、仮にくっつけたとしても、tiānの最後のnはㄢ(an)の中に含まれているものであり、声母のㄋ(n)とはまるきり違う字になるので、声母がないときに特別の記号は用いません。



  6. アル化
     現代中国語、特に北京語では、いろいろな単語の末尾でそり舌・巻き舌をして「ル」という音が加わることがあります。これをアル化(「化」はhuà(ㄏㄨㄚˋ)と発音すること)といいます。特に俗語になればなるほどこれが顕著です。大陸の普通话や台湾の國語は、俗語とは一定の距離がありますが一応北京語を基礎としているので、俗語ほどではないにせよいくつかの単語は末尾をアル化する言い方を正式な形と認めています。
     ピンインではアル化を単に-rという形で表記しますが、もとの音節末尾音によっては単にそり舌化するだけでなく末尾音が省略されたりすることがあり、ローマ字表記と実際の音とが異なってきます。漢字では儿(兒)をつけるだけなので、単独に儿(兒)を発音するのと区別がつかなくなります。注音符号もやはり単に「ㄦ」をつけるだけなのですが、単独の「兒」は2声なので「ㄦˊ」と注音されるのに対し、アル化の「兒」は、まるで1声であるかのように「ㄦ」と注音されるので、一応区別は可能です。
     なお、ピンインでは単にrと表記されるのですが、パソコンのピンイン漢字変換の場合は、rだけでなくerと入力しないとダメです。
     以下、おおざっぱに、末尾音がどのように変化するかをまとめます。
    1. iで終わる音ではiが脱落します。
    2. nで終わる音ではnが脱落します。
    3. ngで終わる音ではngが脱落し、全体が鼻母音化します。



  7. 特別な音節
     主に“うん”“うむ”などといった意味の間投詞が主なのですが、mだけ、nだけ、ngだけの音節というのが存在します。“ムー”“ンー”という感じの音です。ピンインではこういう場合、mやnやngだけを書いて、必要ならその上に声調記号を書いてしまいます。注音符号ではㄇ(m)、ㄋ(n)、ㄫ(ng)となり、これの上や右肩に声調記号をつけてしまいます。



  8. 注音符号の順序とキーボード配列
     台湾の辞典は原則として日本の漢和辞典同様に部首・画数順の配列ですが、巻末などに音索引がついており、これが注音符号順配列になっています。注音符号の順序とは、
    ㄅㄆㄇㄈㄉㄊㄋㄌㄍㄎㄏㄐㄑㄒㄓㄔㄕㄖㄗㄘㄙ
    ㄚㄛㄜㄝㄞㄟㄠㄡㄢㄣㄤㄥㄦ
    ㄧㄨㄩ
     つまりこのページで説明した声母、韻母の順序どおりです。ただしゼロ声母のものは後に来ます。また韻母は、“ㄧㄨㄩで始まらないもの→ㄦ→ㄧで始まるもの→ㄨㄩで始まるもの→ㄩで始まるもの”という順序になります。
     また注音符号のキーボード配列は次のとおりです。

     このように、注音符号の順序をそのままキーボードに左から右にわりあてた感じで、覚えるのがラクです。声調が、3キーに3声、4キーに4声がわりあてられているのもわかりやすいです。“6キー→2声、7キー→軽声”がややわかりにくいかもしれません。
     左手が声母、右手人差し指が介音でその他が韻母、声調が左手にあるので、左→右→左という規則的な動きになりますが、キーボード最上段までわりあててあって数字をつぶしている点が不便かもしれません。
     スペースキーまたは声調キーで実際の漢字に変換されます。その変換が正しくないときには↓キーで候補が出るのでそこから選びます。声調キーは変換の役割もするので、軽声キーも最後に入力します。注音符号では軽声の・は最初に書くようになっているのでこの点は注意が必要です。
     声母・介音・韻母はこの順番に入力する必要はありません。実際の漢字に変換するまでは注音符号はIME内のバッファにたくわえられているので、どんな順番であってもちゃんと組み上げてくれますし、たとえばㄍㄨㄢと入力してㄎキーを押すとㄎㄨㄢになってくれますので、誤入力しても最初からやり直す必要はありません。